メンバーの言いたい放題 21



 Maryはるみの 愛犬日記4
 葉月の哀しみと慈愛
 葉月(ゴールデンレトリバー)は生まれて35日目の8月に我が家にやってきました。片腕に乗れるほど小さくて可愛かったですね。二人でこの可愛い天使がどんなにたくさんの楽しみを運んでくれるだろうかとルンルン気分で車で連れ帰りました。
 しかし、何故か葉月は、私たちになついてくれません。最初は、さっぱり理解できませんでした。子犬は、必ず嬉しそうにシッポを振ってじゃれて来てくれるものと思いこんでいましたから。でも、葉月は、違いました。私たちがいくら呼んでも、「フン!」という冷たい顔をして、近寄って来ることもなく毎日つまらなそうに過ごしていました。朝、顔が合っても、ちっとも喜んでくれません。
腕に乗るほど小さい葉月と姉妹
 今になって思うのですが、葉月は母親や兄弟姉妹からいきなり引き離されたことで怒っていたのでしょう。12匹の兄弟姉妹に囲まれ、まだお母さんのおっぱいをもらっている時期だったから仕方ありませんね。突然、ひとりになって寂しかったのでしょう。どうも親兄弟から引き離した私たちを恨んでいるみたいです。どんなに可愛がってもシッポを振ることがありませんでした。抱きしめようとすると、うとましそうに顔をそむけてしまいます。初めてリードで繋いだときも、葉月はひどく抵抗し、自分でリードをはずそうとしました。「お座り」を教えていたときも、「もう、やめて、そんなことしたくない!!!」というふうにないて抗議しました。最低限の躾はしなくてはならないし、一層嫌われそうで悲しかったけど、葉月の覚えは早く、「トイレ」と「お座り」と「待て」は、しっかりできるようになりました。
 半年が経ち、いくら可愛がっても、葉月の機嫌は一向に直ることなく、私たちは、犬を可愛がることで心が豊かになるどころか、葉月のそっけなさに打ちのめされてストレスが溜まるばかりでした。その一方で、よその人が来ると、振り切れんばかりにシッポを振りながら抱っこしてと有頂天になっている葉月の姿を見ていると、私たちは、ますます気持ちが沈みこみ打ちのめされたものでした。なんと、葉月が嫌っているのは、私たちだけだったのです。仕方なく私たちは葉月に期待することを諦め、ペットショップに葉月のご飯を買いに行く度に、「この子はいつ貰われていくのかしら? 良いおうちに行けるといいね。」と思いながら眺めていたラブラドール(ジャズ)を飼う決心をしました。4ヶ月までウィンドウに入れられていたので、ウィンドウケースにいっぱいになるほどの大きさに成長していました。うちに来ることがどんなことなのか分かるようで、思いっきり嬉しそうにシッポを振ってくれました。葉月と違って、呼ばれたとき「ワーッ 嬉しい!」とビョンピョン跳ねて全身で喜びを表現して来てくれるので、私たちは、やっと救われたような気持ちになれました。
 ジャズが我が家に来る時は、7ヶ月になった葉月が快くジャズを受け入れてくれるかどうか心配でしたので、葉月を工房から少し離れたサークルに入れて様子を見ることにしました。工房の中に入ってきたジャズは、そこが安全な場所どうかを確認するために部屋中をかぎ回って点検していました。ジャズが落ちついてきたところで、葉月を連れてきましたら、自分よりずっと大きい葉月に驚いて、ジャズはかなりの緊張をしたようです。しかし、葉月の方は、私たちの想像を超える行動を起こしたのです。自分のボールをくわえてきたかと思うと、ジャズの目の前にポトンと落としてやり、「ボールで遊びなさい。貸してあげる。」と言っているようでした。それでもジャズは少しだけ抵抗の様子を見せたので、葉月は、すかさずジャズの後ろからのしかかり、「ここでは、私のほうが上なのよ。」とたしなめてから、自分の優位をジャズに分からせると、それからは妹のように歓迎し可愛がるようになりました。私たちには、ツンとすましていた葉月が、ジャズに対しては慈愛溢れるやさしい振る舞いを見せたのです。私たちは、葉月のやさしい振る舞いに感動すると同時に、葉月の心の広さに驚かされました。それからは、ジャズの躾が始まりましたが、ジャズを叱るたびに、葉月がなかに割って入ってお座りし、叱っているお父さんに体を寄りかけながら、「私に免じて、どうぞジャズを叱らないでね。」と見上げながら訴えてジャズをかばうようになりました。
 葉月にとっては、やっと家族が出来たのでしょう。今まで一人だと思っていたのが、突然可愛い妹ができたのです。ジャズがやって来てしばらく、葉月は、少しずつ心を開くようになり、私たちに対する冷たい態度にも変化が見えてくるようになりました。私たちは、いつも葉月の優位を保ちながら、葉月とジャズを同じように可愛がりました。ジャズを可愛い可愛いとなでたり、遊んでやったりしている様子を見て、葉月は実は自分も同じように可愛がられていたんだということが、やっと理解できてきたようでした。おそらく、葉月の冷たさは、35日目に親元から引き離された時の哀しみが頭の片隅に潜在的に残されて、自分でも理解できないままに私たちは嫌な人間だという観念が植え付けられ、素直になじめなかったのではないかと解釈しています。
 今でも、お客様がいらっしゃると大喜びでお迎えするのは、葉月です。誰にでも、満遍なく自分の愛情を表現し、可愛がってもらうすべを知っています。近所の人や登下校の小学生には、知らない人はいないくらい人気のある葉月です。そして、今は、みんなが一つの家族となりました。
 疲れてぼんやり座っていると、いつのまにかそばに寄ってきて体をくっつけてどうしたのとやさしく慰めてくれるのは、いつも葉月です。
小学生を待つ葉月 陽気な葉月
ヘッドホンしちやいました
 その後も、葉月の行動には、まるで人間ではないかと思わせるような表現力と行動力がしばしば見うけられ、私たちは、その度に驚かされています。


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